第十九章・和解

トロイア方がヘクトルの死に悲嘆の声を挙げているころアカイア勢はヘレンポントスの陣営に帰りそれぞれの陣屋へと散っていったが、ミュルミドネスだけはパトロクロスの遺体を囲み彼の死を悼んでいた。
アキレウスはパトロクロスの胸に手を置き彼に語りかけるとヘクトルの亡骸をその横に仰向けに寝かせ一同に供養の食事を振舞った。
ミュルミドネスが食事をとっている頃、他の将領達は親友の死を悼むアキレウスを説得しアガメムノンの陣屋へ連れて行った。アガメムノンの陣屋ではアキレウスの血糊を洗い流そうと湯浴みの支度をさせていたがアキレウスはそれを断固拒み、パトロクロスの葬儀を済ませるまでは決して湯水を浴びることはしないと言い放った。一同はその言葉に従い夕餉をとりそれぞれの陣屋へと帰っていった。


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アキレウスはミュルミドネスに囲まれながら砂浜でため息をつき横たわっていた。やがて彼に眠りがまとわりつくとパトロクロスの亡霊が現れた。パトロクロスの亡霊は生前と少しも変わらぬ姿でアキレウスの枕もとに立つと “眠っているのかアキレウス、私のことなどもう忘れてしまったのだな。私が冥府の門を潜れるよう早く弔ってほしいのだ。もうこの世で二人だけで語り合うこともあるまい。しかしアキレウス、貴方自身もイリオスの城壁の下で果てる定めが待っている。その時はお願いだ、どうか私の骨を貴方から離さずにテティスから授かった黄金の壷に納めてほしい。我らが同じ屋敷で育ったように・・・”とパトロクロスの亡霊が語るとアキレウスはそれに承知し親友の霊を抱きしめようとしたが捕らえることはできずそのまま地下へと消えて去ってしまった。アキレウスは飛び起きパトロクロスを想い涙を流した。


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やがて暁の女神が姿を現しパトロクロスの葬儀の用意が整えられた。アキレウスが己の黄金の髪を切り取りパトロクロスの手に握らせると一同はまた悲嘆にくれ涙を流した。アキレウスがアガメムノンに“火葬は故人ともっとも縁のあった我々だけで執り行うので他の者達は食事の用意に取り掛かかるよう命じていただきたい。ただ大将方には我々と共に残っていただきたい”と言うとアガメムノンは軍勢をそれぞれの陣屋に引き上げさせた。
そしてパトロクロスの亡骸はたくさんの供物と共に炎に包まれ夜を徹して燃え続けた。
夜が明けると薪の火も弱まりアキレウスは一同に火を消すよう言い、そして自分が死んだときのことを皆に頼んだ。一同は酒で火を消しパトロクロスの骨を集めると脂身で二重に包み黄金の壷に納めた。そして塚を築くと皆立ち去ろうとしたが、アキレウスはそれを引きとめそこを集会の場とした。


パトロクロスの埋葬



アキレウスは自分の陣屋からさまざまな賞品、大釜、三脚釜、馬、騾馬、牛、美しい女たち、黄金などを取り寄せるとパトロクロスの葬送競技を開いた。
パトロクロスの葬送競技 まずは戦車競技に始まり、拳闘、角技、徒競走、模擬戦闘、弓競技などが執り行われた。勇士達はそれぞれ得意な競技に名乗りを挙げみごとな賞品を勝ち取っていった。
最後に見事な槍と牛一頭に値する花模様の釜を賞品とした槍投げがもようされることとなったときアガメムノンとメリオネスが立ち上がったが、アキレウスはアガメムノンに戦わずして彼の勝利を宣言した。もはやアキレウスにはアガメムノンに対する恨みは消え和解したということを示したものだった。そしてメリオネスにはアガメムノンから青銅の槍を手渡した。

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