|
今やトロイアの地はメムノンとエチオピア勢に倒されたアカイオイの屍で埋め尽くされているようであった。
メムノンはアカイア勢をヘレンポントス海峡まで撤退させ、さらに彼らを窮地に追い込んでいく。
そんな中ネストルが今まで別の場所で戦っていたアキレウスの姿を見つけ出した。
ネストルはすぐさまアキレウスの側に駆寄りアンティコロスの屍を守り是非その敵を討ってはくれまいかと彼にすがった。
アンティコロスの結末を知ったアキレウスは戦友の死に心を痛め、今まで対峙していたトロイア勢はその場に捨て置き激しい怒りと共にメムノンへと向かって行くのであった。

まずメムノンがアキレウスに向かって大石を投げつけたが、アキレウスはものともせずメムノンの右肩を楯の上から叩いた。
メムノンは負傷しながらも戦意を失うことなく、彼もまたアキレウスの腕を槍で傷つけ傲慢な態度でアキレウスを激しく罵った。
メムノンはアキレウスの母“海の女神テティス”をさげすみ、自分の母“曙の女神エーオス”に比べれば取るに足らない存在で他の神々と同列にも決して見たりはしない。と女神の威光をけなしたのだ。
母への侮辱にアキレウスはテティスがいかに偉大でオリュンポスの神々が彼女を大切にしているかを述べ、“私がお前の身体に槍をつきたてお前が私の力に屈した時、お前は私の母が女神だったということを思い知る事になるだろう”と言葉を吐き捨て長剣をその手に構えた。
アキレウスとメムノンは激しく激突した。両者一歩も引かない戦いぶりに他の戦士たちもそれに習い激戦を繰り広げる。人間達の戦いに神々の目も釘付けだった。
とりわけテティスとその姉妹のネーレデスたち。エーオスと太陽神の娘らが両英雄の身を案じ肝を冷やしていた。
2人の女神は戦いの成り行きを見守り続ける事に耐え切れず、とうとうオリュンポスのゼウスの元にそれぞれの息子の命乞いに向かった。
ゼウスは他の神々に戦への関与と自分への嘆願を禁じた事もあり2人の女神の哀願に困り果てたが、当惑した結果両英雄の命を“運命の秤”にかけた。するとメムノンの皿が沈み勝敗の結果は誰の目にも明らかであった。
激戦の末、とうとうアキレウスがメムノンの心臓に剣を突き立てた。
メムノンの身体はそのまま地面に倒れ付し身に付けていた甲冑が辺りに激しく鳴り響いた。
メムノンの戦死にトロイア勢は皆恐れおののき一斉に逃げ出した。しかしアキレウスがその後を追撃していく。
曙の女神が息子の死に嘆き姿を隠すと大地が暗くなりその隙に風神たちはメムノンの身体を宙に巻き上げた。そしてエチオピア勢も自分たちの王を包み込んだ風神たちの後を追って駆け出していく。
トロイア勢とアカイア勢が茫然と立ち尽くす中、メムノンとエチオピア勢は一陣の風と共に故郷エチオピアへと消え去っていってしまった。

日の光が沈むと曙の女神エーオスは12人の乙女らと共に天から舞い降り、メムノンの亡骸の傍らに付き添うと息子の死を嘆きゼウスとテティスとアキレウスとに呪いの言葉を発した。
エチオピア兵が自分たちの王を埋葬するとエーオスは彼らの姿を鳥に変えメムノンの霊への慰めにとするのであった。
嘆き悲しむエーオスを四季の女神たちが慰めエーオスは自らの務めに戻ったが、朝露はエーオスが我が子メムノンをしのんで流す涙だという。
|