アキレウス解体新書

アキレウスはプティーアの王ペレウスと海の女神ネーレイディスのテティスとの間に生まれました。
アキレウスが生まれると、母テティスは彼を不死身にしようと夜な夜な火に投じ、限りある命の部分を焼き尽くそうとしたとも、冥界のスティクス河に浸けていたともいわれます。
その時テティスが彼のかかとを掴んでいたため、もしくはかかとに木の葉が舞い降りたため、かかとは不死身にならなかったという話です。
そして、その秘密の行為をペレウスに見つかったテティスは幼い息子を置いて海へ帰ってしまいました。

アキレウスをスティクス河に浸けるテティス

母親がいなくなり、アキレウスの養育に困ったペレウスは自分の師でもあるぺリオン山に住むケンタウロス、賢者ケイロンの洞窟に彼を連れて行きます。
ケイロンはライオンと猪の内臓と、熊の髄で彼を養いました。
アキレウスはケイロンから武術、学術、医術、竪琴の演奏などを習い、6歳になると野獣狩りを始めました。

アキレウス&ケイロン

アキレウスが9歳になった時、預言者カルカスがトロイア陥落の必須条件として彼の従軍が必要だと予言しました。
アキレウスはこの遠征に参加すると、必ず戦死する運命にあったので(遠征に参加した誰もが知っていた)母テティスはスキューロス島のリュコメデス王に彼を匿ってもらいます。
彼はここで女の子として扱われ、ピュラ(赤毛の娘)と呼ばれました。

ここからが私にとって最大の謎なのですが、ギリシア神話上アキレウスは“若き英雄”と表現されているのですが、いくら若いといっても年齢のつじつまが合わなさすぎる!!

彼の両親の結婚式の日、“ヘスペリデスの金のりんご”が投げ込まれ“パリスの審判”が行われます。

パリスの審判


その後パリスはメネラオスの館に9日滞在し、10日目にヘレネをさらうのです。
そしてその2年後には、第1回目のトロイア遠征が行われアキレウスはそれに参戦しています。 しかもオデュッセウスの迎えが来る前に王女デーイダメイアとの間にピュロス(後のネオプトレモス)までもうけているのです。
いくらご都合主義のお話しでも、こんなに年代が合わなくていいのか!?
いくら若き英雄でも若すぎます!!

ここにまた別の伝承があります。アキレウスは実はスキューロス島に匿われていたのではなくて、従軍するときにはプティーアのペレウスの館にいたという一説が“イリアス”に書かれています。
迎えにいったのはオデュッセウスとネストルで、アキレウスは2人を歓迎し、喜んで従軍の申し出を受けたので、ペレウスもあきらめて彼を送り出したというのです。
あと“イリアス”ではありませんが、また別の話しではスキューロス島に寄ったのは1回目の遠征(間違いの)の帰りで、ネオプトレモスをもうけたのもその時だというのです。

アキレウスは“イリアス”で遠征している9年間の間に海上では12の都市、陸上では11の都市を略奪したと話していますが、スキューロスも略奪した都市の一つになっています。 その際パトロクロスの為に、イピスという女性を連れてきたということも書かれています。
しかしこの件については同じスキューロスではありますがトロイア近郊にスキューロスという名の町があったであろうというのが後世の見解です。

パリスはヘレネを迎えに行く際、イーデー山の材木を自ら切り出し船を作ったという伝承があります。
そこで私の見解なのですが、パリスは美の判定の後、まずイリオスに赴き自分が捨てられた王子だということを認めさせ、その後船を建造し、ラコニアのメネラオスの屋敷を訪れたのではないか?
そうすれば、ヘレネを連れ出すまでに数年の時が、稼げます。

後は、“パリスの審判”の時、パリスはまだ少年だとされていますから、実際にアフロディテが導いたのは彼が大人になるのを待ってからだったとか・・・
その間パリスは美女をもらう約束のことなど忘れてオイノネと結婚し、後になって有名な美女ヘレネを手に入れられるということでオイノネを捨てていった。というのはどうでしょうか?
うーん。考えれば考えるほど謎が深まりますねぇ。

まあ、実際神話の中のお話しですから、全て作り物かも知れませんが、トロイア戦争の話しに限らず、ギリシア神話の家計図はそれぞれの一族が何十代にも渡って続いており、それぞれの先祖、子孫にちゃんとした物語があるのです。
だから私はこの英雄たちの話はある程度事実に元づいていると考えます。
近年まで架空の都市とされてきたトロイアが発見されたとき、大規模な戦争があった事がわかっています。
実際神々が現れるなんて事はありえないでしょうが、活躍した英雄たちは実際存在したか、もしくはモデルになった人物がいると思います。
シュリーマンもアガメムノンの黄金のマスクを発見していますし・・・(別人の物だという説もありますが)
近年の作家が作った物語では、ヘレネ奪還はトロイア侵攻の口実で、実は政治上の侵略だとする話しがよく作られていますが(実際はそうなのでしょうが)私は神々と共に戦い散っていく英雄たちの物語に惹かれるので、このサイトではあくまで神話にこだわった作り方をしていきたいと思います。



このぐらいで見解は終わりにして、ここからは本題のアキレウスの話に戻ります。
神話から分かるアキレウスという人物は

ペレウスとテティスの息子で、弱点であるかかとを除けば不死身

トロイア遠征に参加すれば必ず戦死することが運命付けられている

ケンタウロスのケイロンに養育された

テッサリア地方プティーアの王子でミュルミドネス(ミュルミドン勢)を率いている

アカイオイ最強の武将で、俊足

金髪で、アカイオイ一の美男子

長髪(アカイオイはみな長髪)

両親の結婚の際、ケイロンから送られた槍を使っている

親友パトロクロスを誰にもまして大切にしている

パトロクロスの次にアウトメドン、アルキメドン(短縮形:アルキモス)という腹心の部下がいる

クサントス(栗毛の馬)とバリオス(まだらの馬)という2頭の神馬が轢く戦車を駆っている

戦いがないときは竪琴などを弾く優美な風流人

一端戦闘に入ると残虐非道な事もやってのける

プライドが高い

正義感が強い

激情家

心優しく情にもろい一面がある

惚れっぽい?

1番の愛妾はブリセイス

ブリセイスが不在の間はディオメデを側に置いていた

マザコンである

スキューロス島の王女デーイダメイアとの間にネオプトレモス(幼名ピュロス“赤毛の子という意味”)という息子がいる


などでしょうか。

上記に上げたうちいくつかはすでに説明していますが、まだ語っていない部分についてお話します。
アキレウスはよく“神とみまごうアキレウス”という表現をされています。
それは彼が神のように美しく強いということを皆が認めていたということでしょう。
“イリアス”の中でアカイオイのことをよく“髪長きアカイア人”と表現されています。
この事によりアカイアの戦士は、基本的に長髪だったことが推測されます。
またアキレウスはパトロクロスの葬儀の際、その髪を切ってパトロクロスの手に握らせるのです。
この2人の友情は何にもまして強いものでした。
よく従兄弟同士だと思われているようですが、家系図によるとペレウスとパトロクロスが従兄弟同士の関係のようです。
パトロクロスは以前殺人の罪を犯し、ペレウスにその罪を清められ庇護されたといわれています。
そしてトロイア遠征の折、まだ若年のアキレウスの補佐をするために従軍しました。
アキレウスの言葉の中には、パトロクロスと2人だけが生き残りイリオスを叩きつぶすとか、自分が死んだときはパトロクロスの骨と一緒に埋葬してほしい など、常に2人の友情は誰にも裂くことができないと思われる表現が見受けられます。 こんな2人だからホモ説が囁かれるのも無理のないことなのでしょう。

パトロクロスの仇討に出かけるアキレウス

パトロクロスの友情とは別に、女性がらみの話も多いです。
デーイダメイアとの間にネオプトレモスをもうけたことはもちろんのこと。 遠征中、愛妾ブリセイスが原因で戦線から身を引いた話。
アマゾンの女王ペンテシレイアを倒した際、彼女の美にうたれた話。
アポロン神殿でトロイアの王女ポリュクセネーと密会していた所をパリスに撃たれた話。
トロイア陥落後、墓から現れ、報償の分け前としてポリュクセネーを要求し、自分の黄泉路の伴をさせたなどです。
やはりいい男には女性の影がつきまとうものなのですよね〜
特にブリセイスは自分から喜んでアキレウスについていった。とか、パトロクロスに“プティーアに帰ったらアキレウスの正妻にしてやる” などと慰められたりしています。
アキレウス自身もブリセイスを手に入れるために“テーバイ”と“リュルネソス”の町を陥とし、彼女の夫ミュネスとその兄弟たちをを倒し、 自ら特別の報償として彼女を要求した。とあります。
なんてうらやましい・・・。私がこんなにもアキレウス様に思い入れがあるのはきっとブリセイスの生まれ変わりに違いない!!(妄想・・・笑)
よくアキレウスはわがままだとか、自己中だとか、パトロクロスは苦労させられているなどと他のサイトではいわれていますが私は全て許します!!

ドリームはここくらいにして、次はミュルミドネスについてですが、アキレウスの祖父アイアコスの為にゼウスが蟻(あり)を人間に変えて従わせたのがミュルミドン人だと神話では語られています。
アキレウスが最強の武将なら、それに従うミュルミドネスもアカイア最強の軍隊でした。
しかも、アキレウスの戦車を轢く馬は、両親の結婚の際ポセイドンから送られた神馬で、これまた最高の軍馬でした。
これを読めば分かるように“イリアス”でアカイオイは、このアキレウスが不在のため撤退寸前の窮地に立たされたのです。

プライドもとても高いようで、アキレウスに対する非礼を反省したアガメムノンがオデュッセウス、大アイアース、ポイニクスの3人にアキレウスが戦線復帰するように説得させに行かせますが、 アキレウスはアガメムノンを決して許さず説得に応じませんでした。
このことでアカイオイは更なる絶望を味わうのです。

アガメムノンの使者を迎えるアキレウス

戦闘では、非常に残虐な面が見受けられます。
トロイアの女たちがスカイアイ門のすぐ側にある泉に水を汲みに出たとき、トロイロスというプリアモスの末の王子が護衛についていました。
アキレウスは女たちは全て逃がし、まだ少年のトロイロスの髪を掴み、馬から引きずりおろしてアポロン神殿まで連れて行き惨殺しました。 それを助けにきたヘクトル達にトロイロスの首を投げつけたのです。
トロイアの王女ポリュクセネーもこの時水を汲みに出た女達の中におり、アキレウスが見初めたとされるのもこのときなのでしょう。
パトロクロスの戦死後は、(激しい怒りもあったため)命乞いをするトロイアの王子リュカオンに冷たい言葉を浴びせかけ殺しています。
パトロクロスの葬儀の為に12人のトロイアの若者を捕らえ犠牲に捧げます。
そして親友の敵であるヘクトルを倒すと、ヘクトルの足に革紐を通し、毎日戦車で引き回してうさを晴らしたのです。

そんな彼もプリアモス王が危険もかえりみずヘルメス神の導きで単独ヘクトルの遺体を貰い受けに訪れたときには心を動かされました。
プリアモスを快く迎え、他の武将に見つからないように配慮し、ヘクトルの葬儀の間休戦することを約束するのです。
こうして“イリアス”は終了します。




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