君に何か捧げたい。
すぐに消えてしまう言葉などではなく、ずっと形に残しておける何かを。
何がいいだろう?
何を捧げれば君は喜んでくれる?
「君麻呂」
呼ばれた名前。
呼ばれた理由。
呼ばれた状況。
呼ばれた相手。
その全てに心臓が破裂しそうなほど内心どきどきしていたが、
それを覚られまいと平常心を保ちながら彼は訊き返した。
「…左近か。何の用だ?」
「お前、色、白っ!!普段なに食って生きてんだ?」
なるほど。そういうことか。
残念。
突然、至近距離で顔を覗き込んで来たから、キスでもしてくれるのかと思った。
しかし、褒められたことに悪い気はしない。
けれど、肌の色ならば僕より…
「左近の方が白い。髪の毛が肌の色に映えてとても綺麗だ。
紫の薔薇があったらこんなかんじだろうな」
ぶっきら棒に、口説くような言葉を言いながら手を伸ばす。
いつものように避けられると思ったが、左近の髪に触れられたことには本人も驚いた。
触れた髪は女の子みたいに柔らかくてサラサラしている。
それに、とてもいい匂いだ。
頭髪剤の香りではなく、左近の身体中から発せられる、もっと甘くて、もっと興奮する。
左近の、匂い。
その香りを嗅いでいたくて、顔を左近の頭に近づけようとした。
「触ってんなよ。気持ち悪ぃな」
首で頭を傾け君麻呂の手から逃れる。
あぁ、いつもの左近だ。
「俺が紫の薔薇?棘が生えてるっていいてぇのか?」
「………」
文字通り素直に受け止めればいいのに。
このひねくれ者。
そう思いながら珍しく己の意志で視線を左近から逸らした。
口は悪いし。
喧嘩っ早いし。
短気だし。
自信家で見栄っ張りだし。
右近には嫌がらせされるし。
ろくなことがない。
ときどき思う、どうして彼が好きなのだろうと。
どうして。
「…俺が紫の薔薇ならお前は白い百合だな」
「えっ…?」
思いがけない言葉が耳に届き、急いで視線を左近に戻した。
が、それももう後の祭で…視線を逸らしたことを後悔した。
左近がどんな表情でその言葉を呟いたのか、君麻呂は知らない。
「左近。今、なんて…」
「でも、テメェは食虫植物っぽいよな。それかマンドラゴラ」
………。
………。
………。
「…じゃあ左近はドクダミだな」
「んだと!?このっ、キモマロっっ!!」
こんな話を左近としたのも、もう遠い昔。
「「 君 に 花 を 」」
「…また、あの夢か…」
この治療室に入ってから、同じ夢ばかり見るようになった。
紫の薔薇と白い百合と左近の夢。
あの頃の僕はまだ身体も健康で、今や音の四人衆と呼ばれているメンバーの中に僕もいた。
与えられた任務はとてもじゃないが楽しいと言えることではなかったが、
みんなと…左近と一緒にいた時間はまるで夢のようで、柄にもなく楽しいと思っていた。
このままでずっといられればと。
しかし、それも今となってはもう過去の話。
今では暗い治療室で身体中に管を通されながら独り寂しく誕生日を迎える始末。
「起きてたのか」
病室の扉が開く音がしたかと思うと、カブト先生が入ってきた。
少しでも左近ではと期待してしまった自分が恥かしい。
「…もう検診の時間ですか?」
「ああ。気分はどうだい?」
「…良くはないです」
良いはずがない。
しかしそんなことをこの人に言っても仕方がないので、あえて口には出さない。
もとより、この人は僕の返答など気にもとめずに話を先に進める…というより、
僕の話などはなから聞いていないのだろう。
案の定、その通りだった。
「今日は何かの記念日なのかな?君の病室の前にこんな物が置いてあったよ」
そう言いながら僕のベッドの隣にある小さな机の上に白い何かを置いた。
それを見た途端、君麻呂は言葉どころか思考すら失った。
それは、美しい、一輪の、
白い、百合。
細い茎は大きな花びらには不似合いで、花を支えきれずにだらんとうな垂れている。
花はまだ開ききっていない蕾で、光と水さえあればこれから綺麗な花を咲かすだろう。
では、光と水がなかったら?
枯れるのだ。
永くも持たず、いとも簡単に。
独りきりの不完全で脆弱な蕾は、何処か自分にも似ていた。
“俺が紫の薔薇ならお前は白い百合だな”
この感情は、言葉にはならなかった。
頭にあの時の言葉が蘇る。
嗚呼。
君には全て見透かされていそうだ。
この花が誰からか送られて来たかなんて、疑う余地もない。
君に何か捧げたい。
そう思っていたのに、与えられたのは僕の方で、与えられたのは形に残せない物。
今は美しいこの花もいずれ枯れてしまうだろう。
なんて皮肉。
なんて残酷。
なんて。
なんて…
「こんな物、誰が置いていったんだろうね」
カブトの言葉に、君麻呂が返事をすることはなかった。
ぶちぶちと身体につながれた管を切る音をたてながら、ゆっくりとそこから起き上がる。
出発の準備は万端。
「…カブト先生。今すぐ外出の許可を頂けませんか?」
答えなど決まっていた。
これは駄目と言われても行くけれど、どうせなら堂々と出かけて行きたい。
そう思って訊かれた言葉。
彼の言葉を聞くと、カブトは少し考え事をするかのような仕草をした後、
ため息をひとつ。
「…駄目だと言っても君は行くんだろう?別に止めたりはしないよ。僕の身体じゃないし。
…もしかして、その花の贈り主にお返しでもあげるのかい?」
死んでも責任はとらない。
返されたのは、彼らしいといえば彼らしい優しく残酷な言葉。
それでも、承諾さえ得られれば君麻呂は満足だった。
「はい。世界で二番目に美しい薔薇の花を探しに行きたいんです」
「二番目?どうして一番目じゃないんだ?それに」
花なんてすぐに枯れてしまうだろう?
「そんな物より、もっと形に残る物の方がいいんじゃないか?」
前の僕なら、なんて答えていただろう?
そんなことどうでもいい。
「世界で一番美しい花を手に入れる為に二番目が欲しいんですよ」
花はいつか枯れてしまう、枯れるから美しいんだ。
それは人間だって同じ。
左近。
君を手に入れる為に。
君に花を。
END
アトガキ
やっとアップできました。誕生日に間に合わなくて本当すみません。
初マロサコ!!珍しくハッピィエンドっぽいカンジに。
どうしよう。ツッコミどころ満載な作品になりました。
検診時間なんてあるのかよとか、みんな偽物すぎるよとか、マロが乙女すぎるだろうとか。
もうとにかくいっぱいいっぱい。
ちなみに見る人によってはカブ→マロ?と思う方もいるかと思いますが違いますので!(それは長楽の文才がない故の…っ!!)
精進します!!